はじめましてのご挨拶。 


これは彼女と彼のはじまりの話。

無能な女誑しが、同性までも誑かしましたー!!?と虚偽っぽい報告をする部下のノック無しの入室に眉を顰めたがそれよりも内容に問題があった。
リザの内心は銃弾をいくつぶっ放してやろうか、だ。
前回の雨の日は、不機嫌のままに仕事を放棄して女性とのデートとケーキバイキング巡りを慈悲(と無能の日への哀れみ)の心で見逃してやったというのに。

「あら、ハボック少尉。それは本当なの?」

彼は、勢いで扉を開けてしまったことを深く、それはもう深く悔いた。
わりとこの手のゴシップは中尉もおもしろがってくれるのに、現在はタイミングがよろしくなかったようだ。だって安全な場所でブレダ少尉が知らんぷりしている。フュリー曹長はガラクタに、ファルマン准尉は資料に囲まれて双方気付いていない。
・・・せめておんなじ少尉のよしみで助けろブレダ。

「お、そらく相違ない・・・か、と」
「おそらく?」
「お願いですからホークアイ中尉俺に銃口向けないでクダサイ───!!」

チッ、と舌打ちされて止めに、「役に立たない」なんて仰られても命は惜しいです。役立たずでもいいですから!と絶叫しながらも安堵の息を吐いた。
ここは戦場か?と呟いてしまう光景も日常茶飯事。大変な部下をお持ちだ、マスタング大佐ったら。

さて。
我らが鷹の目ことリザ・ホークアイ中尉は上司であるロイ・マスタング大佐殿の不届きな行いにぶっ放すお仕置きと書類攻めの罰を決定した。ちなみに裁判官など存在しない。陪審員も猶予も免罪も然りだ。
懲らしめてやるためには、その極悪人を捕らえなければならない。彼女は使命感に燃えた。ちなみにホークアイ中尉は性犯罪者検挙率が軍部一である。・・・うわあ。下克上?

*

「これできみは私が後見人。イコール私の狗だ!」
「腐れたこと言ってンなよ、マスタング大佐。単に俺の後見がアンタになっただけだろーが」

ふたりきりの応接室。
要するに密室で。彼らはナイショの話をしていた。どこらへんが内密なのかは窺い知れない。

「つれない。つめたい。おもしろくない。・・・拗ねるぞ」
「お好きにどーぞ?」
「・・・茶請けに評判のドーナツを出してやるから見捨てるな、鋼の」

そこで微笑まれて、この金色をした同業者の後見となった男はすっかり浮かれてしまって、いそいそと紅茶の準備をはじめる。本当に彼は左官(で上官殿)なのか疑わしい振る舞いだ。

「ドーナツはそのうちデカイ犬が運んでくるし、書類は副官をやってもらっているホークアイ中尉に。わからないことは訊きなさい」
「いちいち説明はしねぇってことだな。この給料泥棒が」
「そんなことより。鋼のは甘いものとか軍人さんとか年上の男とか焔の錬金術師とかは好きかい?」
「甘いものは好きだぜ。年上も。錬金術師もな」

軍人は微妙。ほら、俺が軍属だしー。と明るく笑う間にマスタング大佐は何度も反芻して確認した。
そして歓喜に悶えて目前の人物への告白を決行しようとした。

「鋼の──・・・!」
「だからきれいなおねえさんと錬金術師、いっぱい紹介してね」

な、大佐?と上目使いに見詰められたら脊髄反射で頷きそうになるけれど耳から入った非情の言葉を反芻しまくった三十路手前の大佐は凹んだ。うっすら涙目で。
金色でキラキラしてて、むちゃくちゃかわいらしいのに。なんで。ていうか利用されるの私・・・!?と、さ迷う思考はさて置かれて扉が軽やかにノックされる。
まだまだ悩める三十路手前を放置して、鋼の錬金術師は扉へ「はい。どうぞ」と声をかけながら頓着なく、開けてしまう。彼は相手が暗殺者でも核爆弾でも処理できるからこその無防備さだ。

「え?」 「・・・あれ?」

*

ハボック少尉が託されたドーナツと自前の武器を装備し、問題の応接室へ向かったホークアイ中尉。気分はお奉行さまか。
下手人は本日もきちんと廊下に置かれているバケツの水で動きを封じ、医務室から失敬した筋弛緩剤で逃走不能にしてやる。燃え盛るのは軍人魂か日頃の鬱憤か、はたまた八つ当たりかは中尉だけの秘密だ。

できるだけ、気配を不自然にならない程度に消して応接室の扉をノックする。

すると返されたのは聞き知らぬ声。訝しく思う間もなく、扉が開かれてしまった。
目の前がいきなり眩しくなった。
彼女は後に酒樽片手に語る。我ながら、なんて間抜けな感嘆詞でご対面だったのかしら・・・!と。

*

「あ、ドーナツだ。まじでうまそうじゃん」
「・・・あ、の。失礼ですがあなたは・・・?」

太陽を背負って、金色で眩しい青年はとても美人なのにお皿への視線と表情がおさなくて、かわいらしくて。脳裏に響く運命の鐘の音とともに是非とも彼とお近づきになって、パクッといただいてやる!というほどの衝動と目的をリザ・ホークアイは瞬時に掲げたほどだ。

「ん?俺はエド。エドワード。おねえさんは?」
「え、あ。リザ、リザ・ホークアイ中尉です」
「あー・・・。もしかしてそこの大佐の部下の人?」
「・・・・・・・・・ええ。そうです」
「敬語いらないよ。俺はエド。んで、おねえんさんはリザ。ね?」
「わかったわ。エド」
「ありがと」

一通りのご挨拶を静観する破目になったマスタング大佐は慌てた。
それはもう錬金術師だからと宴会芸を東方司令部の某老将軍さまに請われたときよりも親友である中佐の娘から頬っぺたにチューされたときよりも、だ。
後見にしたい国家錬金術師ナンバーワンの鋼の錬金術師を徐々に口説いていく腹積もりだったのに、自分の部下といい雰囲気。
マズイ。軍部支給のお茶の葉といい勝負にマズイ。

「ホークアイ中尉!鋼の!」

傍迷惑の声量で呼びかければ、なに?と同時に振り向かれる。
しかし用件はナイ。だって本音なんて言ったら殺される(部下に)。それに銃口が黒光りしてます中尉。

「その。ああ、うん。ハボック少尉はどうしたね?ホークアイ中尉」

なんとか捻り出したのは予想外の来訪者へ。
あンの駄犬め。減給だ残業だ降格だー!なんていう罵声を明後日に飛ばしながら。

「ハボック少尉は大佐の所為で役立たずでしたから」
「リザもこんな腐れた上司でたいへんだよねー」
「はがねのー・・・」
これからの三つ巴スタイルはこうしてできあがった。